第二章 デジタルマーケティングを計画する
KGIからKPIを決める
KPI (Key Performance Indicator) は、KGI (重要目標評価指標) の中間指標です。
KGIを分解・再定義する
例えば、KGIが「今年度のECサイトの年間売上高:1億円」なら、組織の目的に応じて分解・再定義が必要です。新規顧客獲得が目的なら「新規顧客による年間売上高:4億円」と設定すると、KPIを決めやすくなります。
KGIをKPIに因数分解する
KGIをKPIに分解することで、指標を明確にできます。例えば、「新規顧客による年間売上高: 4千万円」は「新規購入者数 × 新規購入者あたりの購入金額」分解にできます。逆に、このKPIを掛け算するとKGIを算出できます。KGIに無関係な定量的なKPIは避けましょう。
KPIはさらに分解でき、「新規購入者数」は「ECサイトへの新規流入者数 × コンバージョン率」に拡大できます。KPIは最大10個程度に抑制せず、管理負担が増大する形でシロ化する恐れがあります。KGIとの発生関係や改善の影響、計測のしやすさを考慮して設定しましょう。
ブランディングとKPI
ブランディングとは、自社のブランドを確立し、ユーザーに認知・想起してもらうための活動です。
ブランディングの目的
ブランドは限定高級品を指すものではなく、ユーザーに特定の商品サービスを想起させるものです。 例えば、街中で黄色い「M」のマークを見れば、多くの人がマクドナルドを思い浮かべるでしょう。 このように、「○○と言えば△△」と認識されるブランドの一例です。
ブランディングの目的は、競争との差別化を図り、ブランドに対する「共感」や「新しさ」というブランドの価値を確立することです。これにより、コモディティ化(商品・サービスの画一化)による価格競争を避けながら、ブランドを支持するロイヤルカスタマーを獲得し、継続的な収益につなげることができます。
ブランディングのKPI指標(NPS・DWB)
ブランディングを評価する指標として、NPS®(Net Promoter Score®)とDWB(Definitely Could Buy)があります。
- NPS®は「自社の商品やサービスをどの程度推奨するか」を数値化する指標で、ユーザーに推奨度を質問し、そのスコアを基に算出します。
- DWBは「購入意向」を測る指標で、「絶対に買いたい」「買いたい」など5段階で回答をまとめて、「絶対に買いたい」と答えた割合を算出します。
これらの指標を活用する際は、一時的な数値の変動に一喜一憂せず、長期的な視点を持つことが重要です。ブランドの確立には時間がかかるため、KPIの達成をつつも、ユーザーに長く愛されるブランドを目指しましょう。
ターゲットユーザーを設定する
デジタルマーケティングの強みは、従来の手法と比較して柔軟にターゲットを絞り込めることです。適切なターゲット設定を行うことで、広告費の無駄を減らし、効果的なアプローチを展開できます。
ターゲットユーザーを設定するメリット
例えば、「新規顧客によるECサイトの年間売上4,000万円」を目標とし、広告予算が200万円ある場合を考えます。
- 不特定多数に広告を配信する場合:既存顧客にも広告が届き、一部の予算が新規獲得以外に使われてしまいます。
- 新規顧客のみに広告を配信する場合:200万円の予算をすべて新規顧客獲得に活用でき、より効率的です。
このように、目標を明確にすることで、マーケティングにわたる費用対効果を高めることができます。
セグメンテーションとターゲティングを行う
目標を設定するには、まずセグメンテーションを行い、市場を想定します。切り口として、以下の 4 つが挙げられます。
- 地理的な変数:地域、気候、都市規模など
- 人口動態変数:年齢、性別、職業、結果など
- 心理の変数:価値観、ライフスタイル、趣味・関心など
- 行動変数:購入履歴、ブランドロイヤルティ、利用頻度など
セグメンテーションを行った後、ターゲットとなるユーザーを選ぶのがターゲティングです。例えば、「日本在住の30代男性で、スポーツが好きな新規顧客」のような形で絞り込みます。
ターゲティングの際は、次の4Rを意識すると適切な目標を設定できます。
- Rank(優先順位):目標としての重要度
- Realistic(規模の有効性):市場規模が十分か
- Reach(到達可能性):適切にアプローチできるか
- Response(測定可能性):効果を数値で評価できるか
例、ターゲットを「千葉県柏市在住の男性33歳で、アメフトが好きな新規顧客」にまで細かくすると、規模が縮小しすぎて十分な売上が見込めない可能性があります。また、特定のターゲットにアプローチできる手法が限界のため、リーチの面でもマイナスになります。
デジタルマーケティングでは、ターゲットを絞り込みすぎず、適切なバランスで設定することが重要です。4Rを活用しながら、効果的なターゲティングを行いましょう。
ペルソナを作る
例えば、「日本在住の30代男性でスポーツが好きな新規顧客」といった、目標設定だけでは抽象的なものですが、典型的な一人の人物像を作ることで、思考や行動がイメージしやすくなり、より適切な考え方を立てることができます。
ターゲットユーザーの情報を集める
ペルソナは架空の人物ですが、実際のユーザーの像に基づく必要があります。主観や想像だけで作成すると、現実と乖離したペルソナとなり、前向きの効果が低くなる可能性があります。そのため、まずはユーザーを対象とした情報を収集しましょう。
情報収集の方法として、以下の3つが有効です。
- 目標に直接インタビューする(最も信頼性が高い)
- 目標をよく知る人に聞く
- 調査データやアンケートを活用する
インタビューは最も正確な情報が得られますが、コストや時間の負担があります。難しい場合は、知識や業界関係者に話を聞いたり、可能な範囲で情報収集を行いましょう。
ペルソナを作りこむ
情報をもとに、典型的なユーザー画像を作成します。具体的な項目として、以下を含めるとリアルなペルソナになります。
- 基本情報(年齢、性別、職業、居住地などの人口統計データ)
- 趣味・嗜好(興味関心、ライフスタイル、価値観)
- 行動パターン(日常生活、消費行動、情報収集の方法)
- 課題・悩み(商品やサービスに対するニーズ、困っていること)
- I am Statement(視点視点での自己紹介文)
- 行動計画(どのように商品やサービスと関わるか)
例えば、「広告を見るタイミングは仕事帰りが多い」「商品購入前にSNSの口コミを確認する」といった具体的な行動計画を設定することで、正しい広告配信のタイミングやコンテンツ設計が可能になります。
ペルソナを明確にすることで、ユーザーの視点に立った戦略マーケティングを考えやすくなります。
カスタマージャーニーを考える
カスタマージャーニーとは、ユーザーが商品やサービスを認知し、興味を持ち、比較・検討を経て購入に至るまでの行動プロセスです。
カスタマージャーニーマップを作成する
カスタマージャーニーはユーザーごとに異なるため、ペルソナを基に可視化した図「カスタマージャーニーマップ」を作成します。主な項目は以下の通りです。
- ユーザーの行動
- タッチポイント(接触メディア)
- 思考・感情
- 課題と対応施策
客観的なデータを基に作成し、最初はシンプルに仕上げ、後から精度を高めましょう。
カスタマージャーニーマップを作成するメリット
デジタルマーケティングには多くの担当者が関わります。マップを作成することで、各メディアの役割や連携が明確になり、共通認識を持ちやすくなります。関係者と協力しながら活用しましょう。
デジタルマーケティング戦略立案に向けた分析
適切なデジタルマーケティング戦略を立案するには、市場を分析し、自社の商品・サービスの優位性とポジショニングを明確にすることが重要です。
ポジショニングを考える
ポジショニングを明確化するには、STP分析(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)のフレームワークを活用します。
例えば、「日本在住の30代男性でスポーツ好きな新規顧客」をターゲットに設定した場合、靴の販売なら「クッション性に優れ長時間走っても疲れにくい」「サイズ展開が豊富で家族でそろえやすい」といった差別化が可能です。
ポジショニングを整理するには、「ポジショニングマップ」を活用すると効果的です。これは、縦軸・横軸の2軸で競合との位置関係を視覚化し、自社の強みを明確にする手法です。
マーケティングミックスと4P・4C分析
STP分析の結果をもとに、具体的なマーケティング施策を立案する際に有効なのが「マーケティングミックス」という手法です。その中でも、4Pと4Cのフレームワークがよく使われます。
- 4P(売り手目線):「何を(Product)」「いくらで(Price)」「どこで(Place)」「どう売るか(Promotion)」を整理。
- 4C(買い手目線):「顧客にとっての価値(Customer Value)」「コスト(Cost)」「利便性(Convenience)」「適切なコミュニケーション(Communication)」を分析。
4Pと4Cは表裏一体であり、どちらの視点からも一貫性のある施策を設計することが重要です。例えば、高齢者向けの商品をTikTokで宣伝するといったミスマッチを防ぐためにも、ターゲットに合った戦略を策定しましょう。
KPIを達成するための施策を考える
KPIに対して複数の施策が考えられる場合、どの施策を優先すべきか解説します。
優先順位を決める
優先順位のポイントは「工数」「費用」「KPIへの影響度」の3つです。工数とは施策実行に必要な時間と人数を指し、「作業時間×人数」で算出します。例えば「1人で10日」なら「10人日(MD)」です。必要な工数を見積もり、対応可能な範囲で計画を立てましょう。社外委託の場合、工数は費用に直結するため、予算を考慮する必要があります。
「KPIへの影響度」も重要ですが、事前予測が難しいこともあります。社内事例がない場合は、専門代理店やツール提供元に他社事例をヒアリングするのがおすすめです。
スケジュールを組む
「工数」「費用」「KPIへの影響度」を基に優先順位を決めたら、スケジュールを作成します。作業が多い施策にはWBS(作業分解構成)を作り、ガントチャートと組み合わせて進捗管理を行いましょう。作成したWBSは関係者と共有し、会議などで進捗報告を行いながら適宜対応していくことが重要です。
デジタルマーケティングツールを選定する
デジタルマーケティングにはツールの活用が不可欠です。
デジタルマーケティングツールを導入するメリット
例えば、ZOZOTOWNを運営するZOZOは、独自のMAシステムを開発・運用しています。しかし、多くの企業では外部のデジタルマーケティングツールを活用します。これにより、作業の自動化やレポート作成、HTMLメールのデザインなどが可能となり、PDCAを効率的に回せるのが導入のメリットです。
デジタルマーケティングツールを選定する際のポイント
ツール選定時のポイントは以下の通りです。 ① 業務要件を満たすか ② コストが適正か ③ 自社の体制で運用しやすいか ④ 既存ツールと親和性があるか ⑤ 拡張や変更が容易か
特に「③ 自社の体制で運用しやすいか」は重要です。高性能なツールを導入しても、人員が不足して活用できなければ意味がありません。自社の能力を超えるツールの導入は避け、サポート体制の充実度も考慮しましょう。
コミュニケーションルールを決める
デジタルマーケティングの計画を進めるため、関係者とのコミュニケーションルールを定めます。適切なルールで進捗遅れや認識齟齬を防ぎましょう。
会議体を決める
会議の日程や頻度を計画段階で決めておくと調整がスムーズです。特定の議題は、分科会やWGを活用しましょう。会議ごとに「アジェンダ」「関係部署」「想定時間」を明確にすると運営が円滑になります。リモート会議ではZoomやTeamsを活用し、録音・文字起こしで議事録を残すと便利ですが、情報漏れには注意が必要です。
コミュニケーション手段を決める
関係者間のやり取りにはメールやBacklog、迅速な対応が必要な場合はSlackなどを活用します。大規模プロジェクトでは、タスク管理ができるプロジェクト管理ツールを導入すると進捗確認やリスケジュールが容易になります。重要な決定事項は書面で共有し、認識齟齬や「言った言わない」のトラブルを防ぎましょう。

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